欲しいものが、欲しいね。

植草甚一さんほど尊敬すべき人物はいないなァ。まねてもなれる存在ではないよね。

4000枚のレコード JJの言葉から

植草氏のジャズレコードの話。「ほぼ日」に記録があることを発見しました。編集者・放送作家・演出家・評論家として知られる高平哲郎さんにほぼ日がインタビューしています。

植草さんが亡くなってからわかったんだけど、生命保険にも入ってなかったみたいで残された奥さんにはほとんどお金が無かったらしんです。膨大な遺品の中を処分することになり、作家の片岡義男さんには本を高平はレコードをということになりました。

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本の方は片岡義男さんの知り合いの、渋谷の古本屋に引き取ってもらうことになったけど。レコードの方は結局、忍びなくてさ、植草さんのレコードをばらしちゃうというのは。それでね、タモリのことをふっと思いついて、留守番電話で「タモリ悪い、植草さんのレコードを買ってくれって」って頼んだんですよ。
「全部で4000枚くらいあって、いいものもあるし悪いものもあるかもしれないけど、ともかくタモリ、絶対損はしないから」って。

今後、何年か経って植草さんのレコードが全部タモリのところにあるということになれば、タモリは損はしないって思いがあったんです。
78年だからレギュラー番組は『うわさのチャンネル!!』が決まったばかりの頃。
植草さんとタモリは面識無かったはずなんだけど、植草さん、早稲田大学モダンジャズ研究会の顧問だったらしくて。タモリも「見たことはあるんだ」って言っててね。
タモリは快く引き受けてくれたんです。4000枚ちかくあったアルバムの中には、傷だらけのひどいものもあったみたい。でも、それがあらゆるところで話題になった時に、タモリの格が上がるんだよな(笑)。でも、せめてレコードだけでもという一ファンの願いはタモリのおかげで叶ったんです。

ほぼ日刊イトイ新聞 -「はじめてのJAZZ。」特別番外篇

だいたいにおいて、一家の主が苦労して集めたコレクションは、主が亡くなると残された家人にはゴミ同然になる場合がほとんどです。たぶん、植草氏のレコードコレクションも、事情がわからない人にとっては重くてかさばるビニールの不燃ゴミに見えたのではないでしょうか。広い交友関係が遺産の散逸を防いだと言えそうです。でも引き継いだタモリ氏にもしもの事があったらどうなるのでしょうか。

 

◇ ◇ ◇

植草甚一氏は、レコード蒐集のことをこう語っています。

もともとモダンジャズは、ほかの人から教えられて好きになっていくような性質のものでなく、ふとしたある瞬間、まだ経験したことにないような新しい興奮をあじわったことから、しぜんとすきになっていくものなのです。(中略)ジャズでは曲そのものより演奏者がだれかというのが先にたつので、そうした人名の知識がないと、レコードの選択ができないのです。ほんとうにこまってしまいますが、いったん好きになると、ふしぎなくらい自然に、いろいろなことがあたまにはいっていくんですね。

出典「いつも夢中になったり飽きてしまったり」p311

興味を持ち、時間を忘れるくらい没頭できること、それが最高の贅沢なのかもしれません。 

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