欲しいものが、欲しいね。

植草甚一さんほど尊敬すべき人物はいないなァ。まねてもなれる存在ではないよね。

春樹のスイング

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立ち寄った新古書店で偶然手に入れた一冊。文庫ならアマゾンに行けば手に入りますが、なかなかお目にかかれない単行本です。

「月が消え、恋人に去られ、犬に笑われても、なにがあろうと音楽だけはなくすわけにはいかない」と帯に書かれたコピーがページをめくれとささやきかけます。ロックやクラシックもあります。それ以上にジャズへの語り口が熱を帯びて伝わってきます。

音が前に出てくる頃合いが見れず、その結果として音がぶつかり合ったり混濁したりすることがない。しかもそのような「出し入れ」が、予定調和的に安易ななれ合いに堕することがない。みんなが少しずつ「前に出て行こう」という気持ちがあるから、演奏を重ねれば重ねるほど、音楽の体温はじりじり上がっていくことになる。

そういう人がいればこそ、世界のおもりみたいなものが、しかるべき位置に微調整されて収斂するのだという印象がある。シダー・ウォルトンはまさにそういう人である。(シダー・ウォルトロン)

発表されたのは2003年。村上春樹氏は54歳です。ジャズファンの年齢構成がすこし頭をよぎりますが、感動に年齢制限はありません。身じろぎもせずに苦行のように音楽を聴くのが当たり前だった時代がありました。宝石マニアのようにレコード盤を扱い、高価なオーディオ自慢をする人もいました。しかし得点を競うように音楽を聴くのは楽しいものではありません。携帯プレーヤーと安物ではないイヤホンさえあれば十分楽しめる時代です。ジャズは「死者の音楽」になりつつあるという批判を跳ね返すのは、新陳代謝を促す響く言葉であるに違いありません。

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定価の3割というのも悪くない価格です。